子供の頃

 あの頃は嫌いなものがたくさんあった。酸っぱくてドロドロしたトマト、苦いだけのピーマン、怒ってばかりの母親に、近所で飼われていた大型犬。いつから大丈夫になったのだろう。あの頃はそれを目にしては顔をしかめ、嫌だ嫌だと布団を被り泣きじゃくっていたはずなのに。これが、大人になったということなのだろうか。嫌いだった野菜はもうつかえることなく喉を通っていくし、毎日のように怒鳴っていた母親は今やそれが嘘だったかのように小さくなっている。あの大きな犬は——何年も前に、死んだと聞いたか。
 これが大人ということなのだ。何もかもが遠く、頭の中で薄れていく。生活の全てにおいて感情をぶつけていたあの頃が懐かしいと思った。今の自分はただひたすらに、物事を受け流しているだけだったから。

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